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竹久夢二 時代を創る表現者

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10月27日
読了時間: 6分

会期:2026年10月23日[金]~2027年1月11日[月・祝]

 [前期]2026年10月23日[金]~11月23日[月・祝]

 [後期]2026年11月25日[水]~2027年1月11日[月・祝]

開館時間:10:00〜17:00(金曜・土曜は10:00〜20:00)

     ※入館は閉館の30分前まで

休館日:(ただし11月23日、1月11日は開館)、11月24日、年末年始(12月28日~1月1日)


会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー

展覧会公式サイト https://yumeji2026-28.jp




竹久夢二は、なぜ今も新しいのか?!

東京国立近代美術館で過去最大規模の回顧展


 憂いを帯びた女性像、流麗な線描、どこか懐かしく、それでいてモダンな色彩。竹久夢二(1884–1934)の作品は、今日も「大正ロマン」を象徴するものとして広く親しまれている。

 だが、あらためて夢二の魅力は?と問われれば、美しい女性を描いた画家という一言では語り尽くせない。挿絵、装幀、雑誌の表紙、衣服や日用品のデザイン、さらには自らの店舗のプロデュースまで。その活動は美術の枠を大きく超えていた。

 本展は、全国の美術館や所蔵者の協力によって実現した、過去最大規模の夢二展である。全会期を通じて約485点の作品・資料がリストに並び、展示点数は500点を超える。夢二が生きた時代をたどりながら、彼がいかに新しい表現を切り開き、人々の暮らしに美を届けたのかを明らかにする。



 最大の見どころの一つが、代表作《黒船屋》の出品だ。竹久夢二伊香保記念館が1989年に収蔵して以来、毎年、夢二の誕生日である9月16日前後に公開してきた名作が、約40年ぶりに同館の外で展示される。

 黄八丈の着物をまとった女性が、黒猫を抱いて「黒船屋」と記された木箱に腰掛ける。江戸情緒と異国趣味が溶け合ったこの作品は、夢二芸術の象徴として、画集や教科書のみならず、映画、漫画、テレビCMなどにも引用されてきた。

 制作の背景には、夢二の恋人・笠井彦乃の存在がある。制作当時、彦乃は結核を患って入院していた。黒猫を飼うと結核が治るという俗信があったことから、夢二が彼女を思って描いた作品と考えられている。



 さらに興味深いのは、作品の着想源をめぐる新たな発見だ。夢二が参考にしたとされる西洋絵画、キース・ヴァン・ドンゲンの《猫を抱く女》に加え、今回の調査では、1914年1月3日の読売新聞に掲載された山村耕花の「とらやのせいろ」が重要な手掛かりとして浮上した。菓子箱である井籠(せいろう)を思わせる木箱の形状や構図には、《黒船屋》との共通点がある。さらに、耕花の絵自体も江戸時代の浮世絵に描かれた、井籠に腰掛ける遊女や役者の図像につながるという。

 つまり《黒船屋》は、西洋の近代絵画と日本の伝統的な視覚表現が交差する作品でもある。誰もが知る名作に、なお新しい発見がある。作品を実見することで、その魅力と謎をあらためて味わいたい。



 本展では《黒船屋》のほかにも、貴重な肉筆画が一堂に会する。宣教師と着物姿の女性を描いた《邪宗渡来》《九連環》、色づいたプラタナスと女性の着物の紫や青が響き合う《秋のいこい》など、夢二の画面構成と色彩感覚を堪能できる作品が並ぶ。

 晩年の代表作《榛名山賦》と《立田姫》がそろうのも見逃せない。榛名山を背景に佐保姫、富士山を背景に立田姫を描いた二作が並ぶのは約14年ぶりとなる。また、展覧会への出品機会が少なかった《四季の女》も注目作だ。スキーを楽しむ女性や流行の髪形を取り入れた女性たちの姿には、関東大震災後のモダンガールの時代が映し出されている。




 夢二式の女性像が明治末期に一世を風靡したことはよく知られている。デビュー作にあたる『夢二画集  春の巻』は版を重ね、約9,000部を売り上げた。作品は女性たちの表情や装い、身のこなしにまで影響を与え、男性読者もまた、そこに描かれた青春の感傷や郷愁に共感したという。夢二は女性美を描くだけでなく、人々の感性や生活様式をも動かす存在だったのである。



 本展のもう一つの大きな柱が、夢二のデザイン活動だ。1914年、夢二は現在の東京・八重洲にあたる日本橋呉服町に「港屋絵草紙店」を開いた。自らデザインした商品を扱うこの店は、わずか2年ほどの営業ながら若者たちの人気を集め、東京の名所となった。



 浴衣の模様、装幀、レタリング、楽譜の表紙、雑誌の挿絵など、夢二の仕事は多岐にわたる。とりわけ『セノオ楽譜』『新少女』『婦人グラフ』といった出版物には、絵画とは異なる、時代の空気を捉えたデザイン感覚が発揮されている。同時代の西洋雑誌『ユーゲント』や『フイエ・ダール』などの図版を参照しながら、自らの表現へと作り替えていった点も興味深い。

 その根底には、美術を特別な場所に飾るものにとどめず、日々の暮らしに結びつけたいという思いがあった。夢二の活動は、生活と芸術の融合を目指したアーツ・アンド・クラフツ運動や民藝の思想とも響き合う。今日のグラフィックデザインやライフスタイル提案にも通じる先駆性を、実物資料から感じ取ることができるだろう。



 夢二の創作の秘密を探るうえでは、16点に及ぶスクラップブックも重要だ。古今東西の美術作品や雑誌の図版、日常の印刷物、自身の仕事の切り抜きなどが収められ、なかにはさまざまな手のポーズだけを集めたものもある。

 夢二は美術学校で体系的な教育を受けたわけではなく、初期に白馬会の洋画研究所へ通ったほかは、独学に近い方法で表現を磨いた。日々スケッチを重ね、目に留まった図像を集め、構図や色彩を研究し、自分ならではの表現へと昇華していったのである。関東大震災を記録したスケッチや文章も展示され、画家のみならず、時代を観察するジャーナリストとしての一面にも光が当たる。



 夢二は官展や公募展を活動の中心とせず、新聞や雑誌、書籍などの出版文化を通じて世に出た。彼を支えたのは、美術界の権威ではなく、複製された作品を手に取り、日常のなかで愛した無数の人々だった。東京国立近代美術館が夢二の作品を所蔵していないという事実も、本展を考えるうえで示唆的だ。美術館や公募展が形成してきた近代美術史の枠組みからこぼれ落ちていた表現者を、いま改めて捉え直す機会でもある。

 夢二は、恩地孝四郎や東郷青児らに影響を与え、後世の画家やイラストレーターにも広く受け継がれてきた。その表現の射程は、単なる懐古趣味には収まらない。ジャンルを横断する創造性、レトロとモダンの融合、生活に美を届ける思想。これらは、デジタル技術やAIによって表現と鑑賞のあり方が変わりつつある現代にも、なお新鮮な問いを投げかける。



 会場では声優・石川界人による音声ガイドや公式図録、オリジナルグッズも用意され、《黒船屋》をモチーフにしたフォトスポットも設置される。着物の日や黒猫デーなどの関連企画も開催予定だ。同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」では、鏑木清方の《築地明石町》や、夢二と同時代の文化を考える特集も楽しめる。

 美人画の名手として親しまれてきた夢二。その作品の向こうには、時代の変化を読み取り、新しいメディアを使いこなし、美術を人々の暮らしへと開いていった革新的な表現者の姿がある。知っているつもりの夢二のほかに、まだ出会っていない夢二がいる。本展は、その発見へと誘うまたとない機会となるだろう。



【観覧料】

一般  2,100円(1,900円)

大学生 1,200円(1,000円)

高校生 700円(500円)

( )内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金(販売期間:8月25日~10月22日)。いずれも消費税込み。

※中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。

※キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。

※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。


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