新収蔵ミニチュア展 名人小林礫斎を支えた二人の中田
2026年9月26日[土]〜12月20日[日]
開館時間:10:00~17:00(入館締切は16:30)
休館日:毎週月曜日(ただし、10月12日、11月23日は開館)、
10月13日[火]、11月24日[火]
会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室
小さなものに宿る、大きな物語――名人 小林礫斎を支えた二人の中田!!

長板揃物 長板:4.64×9.84×0.27cm
屏風や柄杓、茶筅などは礫斎作。
手のひらにすっぽり収まるほど小さな器、家具、茶道具、人形、印籠……。けれど、その一つひとつを目の前にすると、「どうして、ここまで小さく、ここまで精巧に作れるのだろう」と、思わず息をのんでしまう。
本展覧会「名人 小林礫斎を支えた二人の中田」は、そんな驚きに満ちたミニチュアの世界を入り口に、名人・小林礫斎(れきさい)と、彼を支えた二人のコレクター、中田實(なかだ・みのる)と中田藤之助(なかだ・とうのすけ)の知られざる物語を紹介するもの。


つとひ 2.53×6.23cm
實コレクションの制作に携わった職人たちの一覧で、象牙製の本体に各人の作品が画帖風に収められている。
「拵(こしら)へ小林礫斎」とあるように、礫斎は全体を取りまとめていた。

山内容堂画 閑翁図 個人蔵
閑翁とは實の祖父で茶人の初代中田宗閑(そうかん、1793-1871)のこと。
土佐藩主の山内容堂(1827-1872)は閑翁の門弟として知られていた。
たば塩と小林礫斎のミニチュアとの出会いは、1990年に開催した展覧会「小林礫斎とその世界~mm単位の繊巧美術~」にさかのぼる。この展覧会をきっかけに、礫斎の主要な顧客であった中田實氏のコレクションが遺族から寄贈され、以来、本館では幾度となく礫斎のミニチュアを紹介してきた。

小倉山蒔絵硯箱 5.3×4.2×1.33cm 蒔絵:今泉成之 水滴:村上定吉 彫金:小林盛良

唐木提簞笥 1.37×1.5×1.27cm 作:矩曲 金具:村上定吉
そして今回、新たに中田藤之助氏のコレクションが本館に加わった。
「中田」と聞けば同じ家の人と思うかもしれない。しかし調査を進めると、二人は意外にも“従兄弟”の関係にあることが分かった。しかも、二人の人生とコレクションをたどっていくと、昭和初期という時代の空気や、美術品を「集める」「つくる」「残す」「人に見せる」という、コレクターたちの情熱が鮮やかに浮かび上がってくる。

中田兄弟商会店舗外観
中田藤之助は、箱根で外国人向けの美術商を営んでいた。富士屋ホテルの一角から始めた商売は評判を呼び、やがて店を構えるまでになる。陶磁器をはじめとする古美術を扱い、高橋是清を初めとする政財界人も顧客として訪れていたという。
ところが昭和3年(1928)、藤之助は店を閉じ、所蔵品を売りに出す。その後、彼はミニチュアの世界に深くのめり込んでいくことになる。
最初は買い集めていたものが、次第に「こんなものを作ってほしい」と職人に注文するように。茶道具や小さな器、香合、雛道具など、さまざまな品々が集められた。

道具箱 外箱の蓋:14×11.6cm
「長板揃物」の各道具を収める専用の箱を礫斎らに作らせたもの。

植木棚(紀州徳川家伝来) 3.88×11.48×13.3cm
藤之助のコレクションで特に目を引くのが、その「箱」だ。
買ったものも、作ってもらったものも、一点一点に専用の箱を誂え、ラベルを貼り、整理していた。小さな美術品のために、立派な収納箱まで用意する。その姿からは、単なる収集を超えた「コレクター魂」が感じられる。
さらに、その小さな品々の中には、紀州徳川家の旧蔵品と考えられるものも。象牙や玉、水晶など、素材そのものにも目を向けると、単なる「かわいいミニチュア」ではない、名家の文化や昭和初期の美術市場へとつながる世界が見えてくる。

机硯箱揃 机:1.72×3.61×1.28cm 硯箱:1.36×0.86×0.32cm 作:小林礫斎 蒔絵:今泉成之
そしてこの展覧会のもう一人の主役が、小林礫斎だ。
礫斎の作品を前にすると、その小ささだけでなく、精密さに驚かされる。小さくても、引き出しは噛み合い、道具としての形が成立している。象牙や鹿角、煤竹などの素材を巧みに用い、実用品の世界まで極限まで縮小してみせる。
薬さじは良く「きく」ように菊の花びらを象るなど、精密さの中に遊び心も潜んでいる。
しかも礫斎たちは、もともとミニチュア専門の職人だったわけではない。帯留や煙草入れ、袋物など、当時の装身具や小間物を手がける職人たちが、時代の変化のなかで新しい表現へと挑戦していった。その仕事の延長線上に、驚異的なミニチュアの世界が生まれたのだ。

甘鯛香合 2.31×6.46×1.5cm
骨董の香合と専用にあつらえた箱。

人形 後列右端の人形:5.7×5.74cm
藤之助のコレクションは三折れ人形などの骨董の人形も多い。
一方の中田實も、かなりの凝り性だった。
日本郵船に勤める会社員でありながら、切手やコインなど「小さなもの」をこよなく愛し、やがて礫斎にミニチュアを注文するようになる。
その作品は、藤之助のコレクション以上に「小さい!」と感じられるかもしれない。小さな箪笥、小さな家具、小さな道具……。礫斎がさまざまな職人を取りまとめ、實の注文に応えていった。礫斎自身が實の家を訪れることもあったといい、コレクターと名人の親密な交流が想像される。
實自身も大変器用な人物で、収納のための帙(ちつ)や巾着などを自ら作った。コレクションには、家族が作ったものや孫の作品まで大切に残されている。

切手コレクション
實の原点である切手のコレクションも、他のミニチュアと同様に箱などをあつらえて保管されている。

『中松庵藤翁蒐集竝鑑製 繊巧美術品目録』 昭和15年(1940)刊行
藤之助の跡継ぎである中田恭義が昭和15年(1940)に刊行した。作品目録と写真ページからなり、モノクロを中心に
一部はカラーで掲載した豪華な一冊。関係職人の一覧も掲載されており、礫斎は象牙小細工師として載っている。
そして二人に共通していたのが、「いつか人に見せたい」という思いだった。
實は一つひとつの作品について、材質、大きさ、作者などを丁寧に記録し、目録まで自ら作った。
藤之助もまた、自分のコレクションを整理し、まとめようとしていた。その思いは、没後、跡継ぎによって出された豪華な『中松庵藤翁蒐集竝鑑製繊巧美術品目録』へと受け継がれる。
そしてその目録が實のもとへ届けられたことで、二人のコレクターの人生が一つにつながることとなった。

葵散し螺鈿蒔絵たばこ盆 16.9×31.5×25.6cm
売立目録には「一七一 紫檀葵蒔繪莨盆 銀牡丹彫煙管付」として載っている。
昭和初期に大蔵省専売局により収集され、現在はたばこと塩の博物館の収蔵品となっている。
本展は、ミニチュアだけではない。
藤之助が営んだ美術商の歴史、売立目録、紀州徳川家ゆかりの品々、實の家に伝わった資料、そして礫斎とともにミニチュアを生み出した職人たちの仕事など、さまざまな資料が登場する。
一見すると「小さなもの」の展示。しかし、近づいてよく見るほど、そこには職人の技術、コレクターのこだわり、家族の記憶、美術商の歴史、そして激動する時代の姿が刻まれていることに気づかされる。

籠売り 高さ(大)5.5cm 高さ(小)5.4cm
目の粗いものから詰まったものまで、多様な籠などを編み上げ、さらに竹製の軸に取り付けている。
無銘ながら、手の込んだ丁寧な作り。
ぜひ展示ケースに顔を近づけて、その小ささを実感してほしい。スマートフォンで拡大してみるのもおすすめだ。肉眼では見えなかった細部が、画面の中で突然姿を現すかもしれない。
「こんなに小さいものを、いったい誰が、どうやって作ったのか?」
その驚きから始まる旅は、やがて一人の名人と二人のコレクター、そして彼らが生きた時代の物語へとつながっていく。

印籠 左端の印籠:2.52×2.16cm
左端は森田藻己作。
会場では作品キャプションに目盛を施したり、礫斎作品を○に「れ」、紀州徳川家旧蔵品を○に「き」と記したり、たば塩らしいわかりやすいアイディアが見られるのも嬉しい。
小さいからこそ、見えてくる世界がある。
ぜひ会場で、あなたのお気に入りの「小さな逸品」を探してみてほしい。
【入館料】
大人・大学生 300円
小・中・高校生、満65歳以上の方 100円
※未就学児の方は無料です。また、障がいのある方は、障がい者手帳(ミライロID可)などのご提示で、ご本人様と付き添いの方1名まで無料です。




コメント