美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像
- ldq03330
- 1月21日
- 読了時間: 5分
会期:2026年1月15日[木]〜3月22日[日]
前期:1月15日~2月17日、後期:2月19日~3月22日
※会期中、一部展示替えします。
開館時間:10時~18時(ご入館は17時30分まで)
※2月6日[金]、3月6日[金]、3月20日[金]、3月21日[土]は、
夜間開館 20時まで開館(ご入館は19時30分まで)
休館日:水曜日(ただし2月11日と3月18日は開館)
土・日曜、祝日は日時指定制(平日は予約不要)
会場:パナソニック汐留美術館
大きな孤面の展示空間に誘われる、希望を再発見するためのユートピア
ユートピアは、イギリスの思想家トマス・モアの小説タイトルで、「どこにもない場所」を意味する。
同じくイギリスの社会思想家、ウィリアム・モリスが自著『ユートピア便り』の中で唱えた暮らしと芸術を統合するユートピア思想は20世紀日本に紹介され、生活の理想として受容された。近代化の過程で日本は、美術・工芸・建築を結ぶ共同体を模索する、世界のどこにもない独自の場となった。
本展は、暮らしと結びついた芸術・工芸・建築に注目し、20世紀日本の「美しいユートピア」をたどることで、その歴史を振り返り、未来の暮らしや今日のユートピアを考える手がかりを探る。

ウィリアム・モリス(発行:ケルムスコット・プレス)『ユートピア便り』
1892年 TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館蔵

横堀角次郎 《静物》 1922年 群馬県立近代美術館蔵
会場は5章構成。第1章は「ユートピアへの憧れ」。
20世紀初頭の日本では、ジョン・ラスキンやモリスの影響のもと、西欧美術への憧れと民衆への関心から理想主義が育まれた。
雑誌『白樺』や柳宗悦を中心とする「民藝」運動は、大正デモクラシー期に「民」を軸として暮らしの中の美を見出そうとした代表的な動きである。
《静物》を描いた横堀角次郎は、岸田劉生率いる草土社に参加した同人。描かれた湯呑はバーナード・リーチの作陶に劉生が絵付けをしたもので、本展に同様の器も展示する。彼らの交友を物語る作品。

今純三 《考現学調査葉書 自宅アトリエノ窓外風景》 1931年 工学院大学学術情報センター工手の泉蔵

山本鼎 《スケッチ パイワン族 小箱の蓋(百歩蛇)》 1924年 上田市立美術館蔵
第2章は「たずね求める 周縁、国外でのフィールドワーク」。
民家や民具を対象としたフィールドワークは、近代化の中で失われゆく「民」を記録し、ジャンルや国境を越えてミュージアム形成へと発展した。
本章では、渋沢敬三が計画し今和次郎や蔵田周忠(ちかただ)も参画した国立の民族学博物館構想の図面も紹介する。
今純三は今和次郎の弟で、資生堂のデザイナーを経て関東大震災後に青森へ戻り銅版画家となり、兄の提唱した考現学を青森で実践して記録を絵はがきとして送った。
また、山本鼎は日本統治下の台湾で工芸調査を行い、山間原住民の工芸を評価して台湾の工芸教育に影響を与えた。

立原道造 《Lodge and Cottages》 1937年 軽井沢高原文庫蔵

鶴岡政男 《夜の群像》 1949年 群馬県立近代美術館蔵
第3章は「夢みる 都市と郊外のコミュニティ」。
関東大震災後、都市化と鉄道網の発達に伴い、蔵田周忠(ちかただ)らが郊外に田園的ユートピアを目指す芸術家村やアトリエを設計した。その交流から生まれた「新人画会」の理想は、戦後美術の基盤となった。
立原道造は卒業設計で浅間山麓に芸術家コロニーを構想し、セザンヌのサント=ヴィクトワール山への思いを重ねて浅間山への芸術的憧憬を描いた。
鶴岡政男 《夜の群像》は、踏みつけ合いもがく群像を通して、戦後廃墟から立ち上がる人間の混乱と生命力を《ゲルニカ》を想起させる画風で描いたもの。松本竣介没後にアトリエに残された板に鶴岡が制作し、下絵も展示されている。

デザイン:ブルーノ・タウト「ヤーンバスケット」 1934-36年 群馬県立歴史博物館蔵
第4章は「試みる それぞれの「郷土」で」。
山本鼎(かなえ)や宮沢賢治、竹久夢二、ブルーノ・タウトらは、「ふるさと」を理想の場とする美しい暮らしを目指し、芸術と生活を結ぶ実践を行った。
ここでは、その運動や関連作品を通じて、郷土を舞台とした協働の試みを紹介する。
「ヤーン・バスケット」は、タウトの建築を思わせる多角形造形と群馬の竹皮編を融合した工芸品で、豊かな色彩とモダンなデザインにより、銀座のミラテスで人気を博した。

磯崎新 《還元シリーズMUSEUM-Ⅰ(群馬県立近代美術館)》 1983年 磯崎新アトリエ蔵 ⒸEstate of Arata lsozaki
最終第5章は「ふりかえる/よみがえる ユートピアのゆくえ」。
戦後日本では、芸術や建築による都市再生と、失われゆく共同体を記録する運動が生まれた。井上房一郎らの復興活動や「デザイン・サーヴェイ」は、芸術と民衆の力を通して未来への指針を探る試みであった。
磯崎新の還元シリーズは建築を純粋形態に還元して描いた絵画で、磯崎はキューブを基に本美術館を一辺12メートルの立方体群で構成し、池上部分のみ22.5度傾けた。
デザイン・サーヴェイは1960〜70年代に大学などで行われた都市・建築の実測調査手法で、神代雄一郎は学生と共に日本的空間と地方性をテーマに各地を調査し、下図は湾沿いの舟屋の実測に基づく描写が特徴的である。

明治大学神代研究室 「伊根亀山デザイン・サーヴェイ集落全体平面図(4枚組)」
1968年 明治大学理工学部建築学科明大建築アーカイブ蔵
会場構成を手掛けたのは、若手建築コレクティブ、GROUP。「ユートピア観測所」のコンセプトのもとに構成された展示会場は、大きな孤面の壁に各章のコンパートメントが配置された斬新で印象的なもの。観る者は日常の延長のその先にあるユートピアに誘われる。
本展は、閉塞と不安の時代においてユートピアを「完成された理想」ではなく、現実の歪みを映し出し、対話と想像力によってより良い未来を模索するための思考のプロセスとして提示しており、それが私たち一人ひとりが希望を再発見する契機となることだろう。
※画像写真の無断転載を禁じます。
入館料
一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:800円、中学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。




コメント