会期:2024年6月1日[土]~ 7月21日[日]
前期:6月1日[土]〜6月23日[日]
後期:6月25日[火]〜7月21日[日]
開館時間:11時~18時 (入館は17時30分まで)
*金曜日は19時まで開館(入館は18時30分まで)
休館日:月曜日、7月16日[火]
※*7月15日[月・祝] は開館
会場:泉屋博古館東京(東京・六本木)
近世以降を中心としたやまと絵の名品でたどる、
雅やかで華麗、時にちょっとユーモラスな歌絵と物語絵の世界
古来の物語は、絵画と深い関係にあり、和歌もまた絵画からの影響を受けてきた。「歌絵」や「物語絵」は、精細な描写と典雅な色彩が特徴で、宮廷や社寺の一級の絵師が貴人の美意識に寄り添い追求した「やまと絵」の様式が継承されている。そしてストーリーに流れる時間を表すかのような巻物、特別な場面を抽出してドラマティックに描き出す屏風など、長大な画面にさまざまな表現が生まれてきた。
古典文学は、後世の人々が自身に引き寄せて味わうことで、読み継がれ輝き続けてきた。それに基づく絵画もまた同様だ。本展では、近世の人々の気分を映し出す歌絵と物語絵を、住友コレクションから選りすぐって紹介していく。
《三十六歌仙書画帖》(書) 伊勢 松花堂昭乗 江戸・元和2年(1616) 泉屋博古館
【前期展示:6/1-6/23】
第1、2展示室「うたうたう絵」では、絵画と和歌の関係性が見られる「歌絵」を展示。「歌絵」とは、四季折々の自然や人の感情を三十一文字で表した和歌を絵画のなかで表現したもので、平安中期の和歌の隆盛とともに広がったもの。逆にその絵から受けた感興から歌が詠まれることもあったという。歌から絵、絵から歌、さらに歌から絵という無限のループの刺激から表現が高められてきた。
ここでの見どころはまず、《石山切(貫之集下)》。もとは豪華な冊子「本願寺本三十六人歌集」の中の一葉。手のひらサイズの豪華な料紙に、紀貫之の恋歌四首がしたためられている。料紙のデザインに呼応して素早く流れるように散らし書きがされ、機知に富んでいる。院政期(十二世紀初頭)の貴族文化の粋がうかがえる。
佐竹本と並ぶ現存最古の歌仙絵である上畳本(あげたたみぼん)から《上畳本三十六歌仙絵切 藤原兼輔》。藤原兼輔は紫式部の曽祖父で、子を思う親の気持ちを歌った和歌が添えられている。人物の個性に迫りつつも、歌仙らしく威儀をただした謹直さが特徴。
《扇面散・農村風俗図屏風》(右隻) 江戸・17世紀 泉屋博古館
本展のメインともいえる、近世初期の歌絵の一例《扇面散・農村風俗図屏風》は、桜咲く水辺に扇面が飛び散るという、非現実的で大胆なデザイン構成。この扇面各々に描かれた美しい絵に、元歌を読み解く楽しみがある。大海原に船が浮かび、左向こうに富士を配する扇には、山部赤人(万葉集)の名歌「田子の浦ゆうち出て見れば真白にそ不尽の高嶺に雪は降りける」を想起させる。また、「彼の津の舟」を「鹿の角舟」と読み替えて絵画化した、駄洒落の効いた扇もある。当時(17世紀初頭)は『あふぎの草紙』という絵と元和歌が載る本が流布しており、もとは上流階級のものだったやまと絵が、上流の町方にも親しまれ鑑賞されていたことがわかる。
《柳橋柴舟図屏風》(右隻)江戸・17世紀 泉屋博古館
さらにもうひとつの歌絵の代表として、大画面の名所絵《柳橋柴舟図屏風》が、会場でまばゆい黄金の光を放っている。「川、橋、山、柴舟、網代木(杭)」と見れば、ここは宇治と連想できる。宇治は歌枕で読み継がれた名所。実景よりも数々の和歌を通じて培われた観念的な世界を投影し、見る人の想像が羽ばたくよう、あえて人を描いていない。また、「宇治=憂し」にも読み替えられる、ややもの悲しいイメージも込められている。
《是害房絵巻》(部分) 南北朝・14世紀 重要文化財 泉屋博古館
第3展示室「ものかたる絵」では、「物語絵」を紹介。物語は元来、音読で読み聞かせを行いながら絵を鑑賞するものが多く、やがて絵巻物から、冊子、扇、掛物、屏風へと広がっていった。中世末から近世にかけて、物語絵屏風が登場し、大画面で視覚的効果を生かした装飾的な世界を創り出した。物語の場面が詳細に描かれ、観賞者の好みや感情、新たな画派の創意が反映された。これは古典文学の普遍性と想像力を刺激し、観る人を物語の世界に没入させる魅力があった。
展示室ではまず、中国の大天狗・是害房(ぜがいぼう)が比叡山で大暴れする話を描いた《是害房絵巻》(重文)を見てほしい。詞書とは別に、天狗の傍らには漫画の吹き出しのような台詞が書かれ、現存最古の入浴シーンとして有名な場面では、「背中がかゆいから掻いてくれ」などと、負けたわりにはふてぶてしい是害房の様子が、生き生きとユーモラスに表現されている。
《源氏物語図屏風》(右隻) 江戸・17世紀 泉屋博古館
そして物語絵として注目は、中世末から近世初期で揃った『伊勢物語』『源氏物語』『平家物語』の屏風絵。それぞれが個性的な画家の作品であり、画面の作り方にもそれぞれ特徴がある。ぜひ見比べてほしい。
『源氏物語』は、五十四帖の話の中から十二帖を選んだもので、若紫を見初める場面だが、よく見ると、興味津々で覗いている光源氏の好色そうな表情が特徴的。描いたのは岩佐派という風俗画を得意とした工房。葵祭での車争いの場面では、乱闘シーンを生き生きと描きつつも、普通は御簾の中で顔は描かない六条御息所をしっかりと描いており、これが描かれた時代の楽しみ方を垣間見せている。
《伊勢物語図屏風》(右隻) 江戸・17世紀 泉屋博古館
《伊勢物語》は、右隻が宗達工房の作風とされている。業平が久々に訪ねた高安の女を覗き見ると、ご飯を山盛りにし美味しそうに食べる様子に、下卑ているとさめてしまったという場面。業平の茫然自失の表情が、宗達派ならではの非常におおらかな表現を見せている。雲、山、水、牛車などがこちらに跳び出してくるかのような躍動感あふれる描写にも注目。
《平家物語・大原御幸図屏風》 桃山・16世紀 泉屋博古館
そして《平家物語・大原御幸図屏風》は、平家でただひとり生き残り、大原寂光院で静かに祈りの日々を送る建礼門院を、平家滅亡の陰の指導者後白河法皇が訪ねる場面を描く。しかし、再会シーンではなく、建礼門院は後ろの山で仏様へのお供え花を摘んでいるという心憎い演出。大画面の中心に漫画の集中線のように人が集まってくる後白河法皇と、建礼門院の対比を描いたダイナミックな表現。中世末の土佐派を引き継いだ表現ではないかと考えられている。
《乾坤再明》原田西湖 明治36年(1903) 泉屋博古館東京
【前期展示:6/1-6/23】
第3展示室「れきし画」では、近代まで描き継がれた「歴史画」を紹介。明治政府の国家意識の形成のため、日本の歴史や神話、仏教主題、伝説がしばしば描かれるようになる。そんな中の一点が、天鈿女命を描いた原田西湖の《乾坤再明図》。非常にこまやかに史実を検証した描写、一方で天照大神の光を感じさせる新しい絵画表現が見受けられる物語絵である。大正時代に入ると歴史画は、作者の思想を代弁するキャラクターとしての意味合いが増していくことになる。
また、第4展示室では、特集展示「没後100年 黒田清輝と住友」を同時開催。『平家物語』の高倉天皇と小督の悲恋で知られる京都の清閑寺を舞台に描かれた《昔語り》(空襲で焼失)を通じて、黒田清輝と住友家第15代当主であった住友吉左衞門友純(1864~1926、号春翠)の交流を取り上げる。現存しない《昔語り》の下絵やオイルスケッチを見ることができる貴重な機会となる。
文化財用高精細スキャナーで撮影した物語絵屏風の拡大画像の展示にも注目。雅やかで華麗、時にちょっとユーモラスな歌絵と物語絵の世界を、ぜひお楽しみいただきたい。
※泉屋博古館東京では入館のための事前予約はおこなっておりません。ご希望の日時にお越しください。
観覧料金:一般1,000円 高大生600円 中学生以下無料
20名以上は団体割引料金(一般800円、高大生500円)
障がい者手帳等ご呈示の方は無料
本展会期中2回目のご来館時は、初回来館時の半券呈示にて半額
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