時代を映す錦絵 ー浮世絵師が描いた幕末・明治ー
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- 4月11日
- 読了時間: 8分
会期:2025年3月25日[火]~5月6日[火・祝]
開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。
休館日:月曜日 (月曜日が休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
この錦絵を見れば、激動の幕末から明治にかけての社会情勢がわかる!!
ありそうでなかった画期的な切り口の展覧会!!
本展は、江戸時代末期から明治初期にかけての激動の時代を描いた錦絵を、歴史資料としての側面に焦点を当てて展示するもの。
錦絵は、役者絵や美人画といった芸術作品であると同時に、当時の社会情勢や流行を伝えるメディアとしての役割も果たしていた。特に天保の改革以降、風刺画が登場し、世相を反映した錦絵は大きな人気を博する。
会場では、戊辰戦争などの動乱、災害、流行病、賑わいを見せたイベント、流行現象などを描いた錦絵を通して、当時の社会の様子を紹介。また出版統制下において、錦絵がどのように規制をかいくぐりながら情報伝達の役割を果たしたのかについても解説する。

道化手遊合戦 歌川貞益画 天保14~弘化3年(1843~46) 国立歴史民俗博物館蔵
展示は9つの章で構成。第1章は「風刺画の基盤」。
江戸末期に流行した風刺画や時事を扱う錦絵は、当時の出版規制を避けるため、直接的な表現を控えながら工夫して風刺や時事を伝えた。まずはその工夫の基となった題材や趣向を紹介する。
会場ではまず、歌川貞益(さだます)画《道化手遊合戦(どうけてあそびがっせん)》に注目。雛祭りの雛壇を背景に、右側では男雛が指揮する軍勢が、左側では五月飾を本陣にした軍勢(大将は源為朝か)が合戦の真っ最中。戦っているのは、犬張子に乗った猿や五月幟から抜け出た鐘馗、鯛車に乗った鎧武者などの玩具類で、右側は雅を感じさせ、左側は猛々しさが目立つ。中央には半田稲荷の旗を持つ狐がいて、稲荷社は小児の疱瘡・麻疹に霊験があると信じられていた。

源頼光公館土蜘作妖怪図 歌川国芳画 天保14年(1843) 国立歴史民俗博物館蔵
第2章「風刺画の登場」では、幕末に評判を呼んだ風刺画や時事を扱った錦絵の代表作を展示することで、この新しい風刺画というジャンルの誕生を示していく。
そのきっかけとなったのが、天保14年(1843年)、歌川国芳の《源頼光公館土蜘作妖怪図》。病の源頼光の枕元で法師に化けた土蜘蛛が無数の妖怪を出現させて彼とその部下の四天王を悩ませているという図だが、妖怪変化らは天保の改革で罰せられた人々や禁止された業種の人々の恨みの化身だと大評判となった。

弁慶なまづ道具 安政2年(1855) 国立歴史民俗博物館蔵
第3章は「鯰絵」。
安政2年(1855)に江戸を襲った大地震の直後から、地震の元凶とされていた地中の大鯰を題材にした錦絵が大量に発行され、風刺画・時事錦絵として最初のピークが出現する。
それらの中には地震後の世相を風刺したものも多く、また後の時代の風刺画・時事錦絵の趣向の母体となったものも見いだせる。
《弁慶なまづ道具》は、“弁慶七ツ道具”ならぬ“なまず道具”で、五条大橋の袂にたつ弁慶鯰が鋤や鍬、のこぎり、斧、槌など土木・建設の道具を背負っている。復興景気で大工や左官など建設関係の業種が潤ったことを皮肉ったもの。

麻疹退治 歌川芳藤画 文久2年(1862)7月 国立歴史民俗博物館蔵
第4章は「流行り病と錦絵」。
江戸時代末期に何度か大流行を見せたコレラと麻疹。有効な治療法のなかった当時、錦絵も病に翻弄される人々の情報源となった。
この章では、安政5年(1858)のコレラ流行の折に出た錦絵と文久2年(1862)の麻疹の流行時に出た錦絵を取り上げる。後者には麻疹除けの他に鯰絵と同様の世相風刺の意図も見いだせるだろう。
歌川芳藤(よしふじ)画の《麻疹退治(はしかたいじ)》は、酒呑童子風の麻疹童子が、病の流行で損害を受けた業種やその擬人化した者たちに打たれ、潤った医者や薬種屋がそれを止めようとする様子を描く。前者には遊女、酒屋(酒樽)、噺家(「昔ばなし」と書いた扇)、船宿(携行用の髪結い道具箱)、湯屋(桶)らの姿が見える。画面上部には、房事や入湯などの避けるべき行為や食べ物、食べてよい物が示されている。

延寿安穏之見酔 文久3年(1863) 国立歴史民俗博物館蔵
第5章は「激動の幕末」。
ペリー来航の後、開国と攘夷の間で揺れ動いた江戸幕府は、わずか十数年という短い間で倒壊にまで突き進んだ。
江戸の民衆は大事件の情報を求め、それに応えた錦絵は激動する世の中の動きをタイムリーに伝えている。将軍家茂の上洛、生麦事件の余波の江戸市中混乱なども、錦絵の好画題となった。
《延寿安穏之見酔(えんじゅあんおんのみえい)》は、生麦事件翌年のイギリス艦隊の江戸砲撃を恐れ、郊外へ逃げる人々の混乱を風刺した「あわて絵」。千手観音のパロディにした菩薩が荷物を積んだ舟の上に立ち、光背は荷車の車輪、手には草鞋や宿帳などの旅行・輸送、すなわち江戸市中からの逃避行を匂わせる物、さらに鉄砲や刀など異国との戦闘を示唆する道具を持つ。半裸の菩薩は遊女で、騒動で客足が絶えた遊里の苦境も風刺している。

おたけ大日如来略えんぎ 歌川国芳画 嘉永2年(1849) 個人蔵
第6章は「開帳と流行り神」。
この章では、お竹大日如来などの流行の折に出た多彩な錦絵や、開帳に合わせて興行された見世物の錦絵などを紹介する。
江戸時代は、さまざまな神仏がにわかに流行し、それを当て込んだ錦絵も大量に売り出されている。とくに神仏の開帳と流行には深い関係があった。
江戸時代前期、江戸の裕福な商家で働いていた竹女が大日如来の化身とされ、人々の信仰を集めた。嘉永2年(1849)には「お竹大日如来」の開帳があり、多くの錦絵が売り出された。歌川国芳の《おたけ大日如来略えんぎ》では、竹女が雲に乗って天に昇る姿が描かれている。彼女の着物には名前にちなんだ竹の模様があり、手拭は仏像の光背のように輪を作り、後光が差している。眼下には富士山を遠景にともなった江戸の町。その小ささと飛ぶ鳶でお竹の昇った高さを際立たせている。

五ヶ国於岩亀楼酒盛の図 歌川芳幾画 万延元年(1860)12月 国立歴史民俗博物館蔵
第7章は、「横浜絵」。
通商条約をもとに開港し、急速に貿易都市としての体裁を整えていく横浜の町の景観や風俗は江戸の人々にとっても関心の的で錦絵の新たな画題となった。
横浜をテーマにしたこうした錦絵は万延元年(1860)から翌文久元年(1861)をピークに大量に出版され、今日、横浜絵(横浜浮世絵とも)と呼ばれている。この章では横浜絵の中から代表的な画題のものを紹介。
岩亀楼(がんきろう)は横浜の港崎遊廓で特に豪華な遊廓として知られ、錦絵にもたびたび描かれた。歌川芳幾の《五ヶ国於岩亀楼酒盛の図》は、外国人客と遊女たちが宴を楽しむ様子を描いた作品で、「五か国」と題しながらも実際にはおろしや(ロシア)、紅毛(オランダ)、英利吉(イギリス)、亜米利加(アメリカ)、なんきん(清国)、ふらんす(フランス)の6か国の人々が登場し、一部には女性も含まれる。襖にはさまざまな扇絵が貼られ、岩亀楼の中でも特に豪華な「扇の間」とわかる。

かつぽれかへうた 東柴画 明治6年(1873) 国立歴史民俗博物館蔵
第8章「動物狂騒曲」では、人々が動物に熱狂したふたつの世相を写した錦絵にスポットを当てる。
万延元年(1860)に舶載された豹は、江戸の両国で見世物に出され、“雌のトラ”として評判を呼び、大勢の観客を集めた。
また、明治5、6年にはウサギが大流行。東柴(とうさい)の描いた《かつぽれかへうた》は、俗謡に合わせて踊るかっぽれの歌詞にウサギの毛色を詠み込んだもの。明治5年から愛玩用の外来のカイウサギの人気が高まり、これを繁殖させて儲けようという人々が相次いで、投機的なウサギブームが訪れる。翌年にはウサギの売買に高い税金が課せられるようになりブームは収束するが、短い期間にウサギをネタにした錦絵が数多く出版された。

古今珍物集覧 二代歌川国輝画 明治5年(1872)3月 国立歴史民俗博物館蔵
最後の第9章は、「開化絵とその周辺」。
明治維新で急速に変化した東京の町や風俗は錦絵の人気の題材となり、「開化絵」と呼ばれている。擬洋風建築や鉄道、博覧会などが華やかに描かれる一方、小林清親は繊細な彩色で抒情的に東京の開化を描いた「光線画」を制作した。
明治5(1872)年3月10日から一か月の間、東京の湯島聖堂で文部省博物局が主催する湯島聖堂博覧会が開催された。国内初の官設の博覧会で、書画、古器物、標本、物産品などが展示された。二代歌川国輝の《古今珍物集覧》は、大聖殿と左右の回廊を展示室にし、大聖殿前の参道に名古屋城の鯱と水槽に入ったサンショウウオが設置された展示風景をイメージして描かれたもの。右手回廊に剥製など動物標本、正面の大聖殿に書画、左に甲冑、楽器などの古物類が陳列されている。
「写楽や歌麿だけが錦絵じゃない!マニアックな錦絵が勢ぞろい!」というキャッチフレーズの通り、今までありそうでなかった切り口がキラリと光る展覧会。2,340点といわれる歴博の錦絵コレクションの中から精選された、1点ずつ解説つきの風刺画が展示されるまたとない機会。
民衆の中に息づき、爆発的な広がりをみせた時事錦絵を通し、江戸時代末期以降のリアルな流行現象、民俗、文化、人々の関心事を総覧する。
【観覧料】
一般1000円(800円)/大学生500円(400円)
※( )は20名以上の団体料金です。
※総合展示も合わせてご覧になれます。
※高校生以下は入館無料です。
※高校生及び大学生の方は、学生証等(学校の発行する公的書類)を提示してください。
(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳等提示により、介助者と共に入館が無料です。
※半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。
また、植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
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