開館30周年記念 江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ
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- 6月9日
- 読了時間: 8分
更新日:6月14日
会期:2025年5月30日[金]~ 7月21日[月・祝]
前期 5月30日[金]〜6月22日[日]
後期 6月24日[火]〜7月21日[月・祝]
開館時間:10時~18時(金・土曜日は、20:00まで) ※入場受付は閉館の30分前まで
休室日:月曜日(7月21日は開室)
会場:千葉市美術館
【同時開催】
■開館30周年記念 日本美術とあゆむ―若冲、蕭白から新版画まで
2025年5月30日[金] – 7月21日[月・祝]
■千葉市美術館コレクション選
開館30周年記念特集展示 斎藤義重/[コレクションはここからはじまった]青木コレクション 幕末・明治の浮世絵/40年目のカレンダー サトウ画材カレンダー’85をめぐる
2025年6月3日[火] – 7月6日[日]
開館30周年と蔦重イヤーが合体!! 浮世絵隆盛の流れのなかに蔦重を見る、
千葉市美の誇る名品・優品を最大限に生かした白眉の展覧会。
浮世絵の黄金期を支えた蔦屋重三郎(1750-97)。彼は吉原で生まれ、江戸の浮世絵を語る上では欠かせない存在となった。
彼が出版元として活動した安永(1772-81)から寛政年間(1789-1801)は、多色刷りの錦絵が発展した時期とほとんど重なっている。特に天明から寛政にかけての時代は「浮世絵の黄金期」と称され、蔦屋もその発展に大いに貢献していた。
西村屋与八や鶴屋喜右衛門といった多くの老舗版元がひしめく中で、新興の蔦屋重三郎は彗星のごとく出版界に登場する。彼は喜多川歌麿(?− 1806)を人気絵師に育て上げ、また東洲斎写楽(生没年不詳)を発掘し、その後の浮世絵の評価を大きく変えるという偉業を成し遂げる。
千葉市美術館の開館30周年を記念する本展では、菱川師宣(?-1694)から鈴木春信(1725?− 70)、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎(1760-1849)、渓斎英泉(1791-1848)、歌川広重(1797-1858)にいたるまでの浮世絵の歴史をたどりつつ、蔦屋が生まれた時代から華やかな黄金期の浮世絵への展開、そして“世界の Ukiyo-e”へと進化していくさまを紹介する。

菱川師宣《美人立姿図》 元禄期(1866-1704)
摘水軒記念文化振興財団蔵(千葉市美術館寄託)
会場は、全5章とプロローグ、エピローグで構成。
プロローグ「『浮世をえがいた絵』のはじまり」では、“浮世絵とは何か”を、蔦屋が生まれる前の時代を振り返りつつ、浮世絵の始まりから多色摺(カラー)の錦絵への進化をたどる。
たとえば、浮世絵の始祖とされる菱川師宣の大判墨摺絵《衝立のかげ》をはじめ、《美人立姿図》や《隅田川・上野風俗図屏風》などの貴重な肉筆作品が、初期肉筆浮世絵の名品・優品とともに一堂に並ぶさまは壮観、千葉市美術館所蔵品の質の高さがうかがえる。
「うきよ」とはもともと「憂世」、すなわち辛い現世を意味する言葉だったが、人々が刹那的な享楽を追求する「浮世」という価値観へと転換し、その中で庶民の風俗を描く浮世絵が誕生した。
浮世絵からは、遊郭のような場所さえも享楽の対象として文化へと昇華させるダイナミズムと、その根底にある生々しい人間の営みを強く感じ取ることができる。
第1章「蔦屋重三郎という人物」では、蔦屋の生涯と主要な出版活動、特に『吉原細見』に焦点を当てている。
蔦屋は吉原で貸本屋として創業。安永3年(1774)の『一目千本』で出版業に参入し、その後日本橋へ店舗を進出させた。特に安永7年(1778)から手掛けた『吉原細見』は、他の版元を凌駕し、蔦屋の独占出版となる。
また、本章では、狂歌の世界を通じて、蔦重がいかにして当時の文化人と交流し、人脈を築いていったかについても紹介している。

鈴木春信《(三十六歌仙)藤原仲文》 明和4-5年(1767-68)頃 千葉市美術館蔵
(6/22まで展示)
第2章は、「蔦屋を育んだ吉原と遊女のイメージ」。
江戸時代、唯一幕府公認の遊廓であった吉原は、豪奢な「通人」たちが集う異世界であり、同時に知識人が交流する文化サロンとしての役割も担っていた。
鈴木春信による多色摺りの錦絵が登場し、浮世絵界に革命が起きた後、『絵本青楼美人合』が刊行される。錦絵がはじめられたばかりのこの時期にしては贅沢なこの絵本には、吉原の遊女166名が名前入りで全身像で描かれており、広報的な意図による入銀物(吉原側からの出版費用の出資)だった可能性がある。吉原の表も裏も知り尽くす蔦重は、そうしたやり方を間近で見ていて、その後の出版活動の参考にしたのではないだろうか。
他にも、歌川国貞(1786-1865)、喜多川歌麿、渓斎英泉といった著名な浮世絵師による、吉原の遊女や妓楼の様子を描いた作品が多数展示され、華やかな会場となっている。

鳥文斎栄之 《吉野丸舟遊び》 天明 (1781-89)後期 大判錦絵5枚続 千葉市美術館蔵
第3章「吉原の本屋から『版元蔦屋』誕生へ 安永から天明期の浮世絵」では、蔦重が版元として成長した安永期(1772-81)から天明期(1781-89)にかけての浮世絵を鑑賞する。
特に天明期から寛政期(1789-1801)は、後に「浮世絵の黄金期」と呼ばれるほど、浮世絵の技術と表現が飛躍的に発展した時代だった。この章では、礒田湖龍斎(1735-?)、北尾重政(1739-1820)、勝川春章(1743-92)、鳥居清長(1752-1815)、窪俊満(1757-1820)、勝川春潮(生没年不詳)など、当時の主要な絵師たちが技巧を凝らした作品を通して、その発展を垣間見ることができる。

喜多川歌麿『画本虫撰』 天明8年(1788) 千葉市美術館蔵

喜多川歌麿『潮干のつと』 寛政元年(1789)頃 千葉市美術館蔵
第4章「蔦屋の偉業 歌麿、写楽、長喜のプロデュース」。
蔦屋は安永4年(1775)、傑作として名高い浮世絵『吉原傾城新美人合自筆鏡』を出版。また、版元・西村屋与八の「雛形若菜の初模様」シリーズにも関与し、吉原遊郭の後押しによって、廓外の西村屋与八との調整役を担ったと考えられている。
天明3年(1783)に日本橋油町に耕書堂を開店した蔦屋は、狂歌師に活動の場を提供しながら喜多川歌麿を支援し、狂歌絵本の制作に注力。特に、その繊細な表現で海外でも高く評価された『画本虫撰』には注目。
また寛政期には、歌麿の代名詞となる大首絵(人物の首から上を大きくクローズアップした絵)の美人画を売り出し、一世を風靡した。
本章では、他の版元から出版された評判娘の美人画や役者絵とともに、蔦重がプロデュースした北尾政演(1761-1816)、喜多川歌麿、東洲斎写楽、栄松斎長喜(生没年不詳)の逸品を紹介する。さらに、浮世絵の象徴的な作品となっている写楽の《市川鰕蔵の竹村定之進》や《三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛》といった、強烈な表情が特徴的な役者絵もこの章で紹介されている。

喜多川歌麿《当時三美人 富本豊ひな 難波屋きた 高しまひさ》 寛政5年(1793) 千葉市美術館蔵

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 寛政6年(1794) 千葉市美術館蔵
第5章「蔦重が活躍した時代 浮世絵の豊穣期。
天明末期から寛政期は、いわゆる「寛政の改革」の影響下にもかかわらず、浮世絵が急速に発展した時代。この時期には浮世絵版画(錦絵)だけでなく、絵師が直接描いた肉筆浮世絵や、出資を募って出版された入銀本の絵本などでも、贅沢で豊かな表現が生まれた。
ここでは、当館の新収蔵品である鳥文斎栄之の《若那初裳 大ひしや三花 きくし きくの》を鑑賞することができる。歌麿とは異なる清澄な美人像を、ぜひ体感してほしい。
この章では、当時活躍した歌麿や栄之の作品に加え、勝川春章(1743-92)の濃彩な肉筆美人画、勝川春潮(生没年不詳)や、歌川豊国(1769-1825)によるワイド画面の壮大な浮世絵や、さまざまなスタイルの美人画など、当時の多様な浮世絵を鑑賞できる章となっている。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 天保2-4年(1831-33)頃 千葉市美術館蔵
エピローグ「蔦屋の没後 "Ukiyo-e"への変貌」では、蔦屋が1797年に亡くなった後の浮世絵の展開に焦点を当てている。
蔦屋重三郎は寛政9年(1797)に47歳で亡くなるが、その出版事業は二代目に引き継がれる。二代目蔦屋は、葛飾北斎やその弟子である柳々居辰斎(生没年不詳)の狂歌絵本、喜多川歌麿の黄表紙や絵本などを出版し、また、蔦屋から暖簾分けした蔦屋吉蔵(生没年不詳)は渓斎英泉の錦絵をプロデュースした。
蔦屋がプロデュースした浮世絵は、その後の浮世絵の評価を大きく変えることになる。明治期、フランスを中心としたジャポニスムの潮流のなかで外国の人々に愛された北斎、英泉、歌川広重などの傑作で本展は締めくくられる。

歌川広重《名所江戸百景 亀戸天神境内》 安政3年(1856) 千葉市美術館蔵
今年はNHK大河ドラマ「べらぼう」の関連で、蔦屋重三郎をテーマとした展覧会やイベントが多いが、その中でもこの千葉市美術館開館30周年記念の「江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ」は、浮世絵隆盛の流れのなかに蔦重を捉えるという明快な視点が魅力。加えて千葉市美の誇る質の高いコレクションをふんだんに使っており、まさに白眉の展覧会に仕上がっている。
この特別展と合わせて、「日本美術とあゆむ―若冲、蕭白から新版画まで」と「千葉市美術館コレクション選」(千葉市美の始まりである青木コレクション「幕末・明治の浮世絵」も鑑賞できる)もぜひ観てほしい。浮世絵をより深く理解できて、名品の新たな魅力を発見する絶好の機会になるはずだ。
観覧料
一般1,500円(1,200円)、大学生1,000円(800円)、小・中学生、高校生無料
※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
※( )内は前売券、団体20名以上、および市内在住65歳以上の料金
※前売券は、ミュージアムショップまたはローソンチケット(Lコード:32706)、セブンイレブン(セブンチケット)、千葉都市モノレール「千葉みなと駅」「千葉駅」「都賀駅」「千城台駅」の窓口にて5月29日まで販売(5月30日以降は当日券販売)
◎本展チケットで7階「日本美術とあゆむ―若冲、蕭白から新版画まで」、5階常設展示室「千葉市美術館コレクション選」もご覧いただけます
◎ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18:00以降は観覧料半額
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