もてなす美―能と茶のつどい
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- 11月29日
- 読了時間: 5分
会期:2025年11月22日[土]〜12月21日[日]
開館時間:11時~18時 ※金曜日は19時まで開館 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(11/24は開館)、11月25日[火]
会場:泉屋博古館東京(東京・六本木一丁目駅)

《紅白萌黄段青海波笹梅枝垂桜模様唐織》 江戸時代・18世紀 泉屋博古館東京
住友家十五代当主・春翠と能楽師・大西亮太郎の交流を軸に、
能装束や能道具、茶道具の名品で学ぶ、住友流“おもてなしの美”
住友家が能を「もてなす美」として取り入れるようになった背景には、十五代当主・住友吉左衞門友純(ともいと、1865-1926、号・春翠)の存在がある。春翠は公家・徳大寺家の出身で、もともと能に親しんでいた。そのため、能楽師・大西亮太郎(1866–1931)の協力を得て、それまで余興として行われていた歌舞伎を能へと改め、客をもてなすための正式な催しとして発展させていったのである。

《紺地桐卍字散模様袷狩衣》 江戸時代・18世紀 泉屋博古館東京
また住友家では、近世以来、饗応の場に茶の湯を取り入れてきた。春翠が主催した茶会には亮太郎もたびたび招かれており、両者の間には茶の湯を通じた親しい交流があったこともうかがえる。
本展覧会は、このように住友家に受け継がれた「能」と「茶の湯」によるもてなしの美学を示すため、当時の場で実際に用いられたさまざまな道具を展示・紹介するもの。

《紺地唐花立鼓雲菱千切模様半切》 江戸時代・19世紀 泉屋博古館東京
会場は住友春翠と大西亮太郎の2人の交流を軸に、3つの章と特集展示で構成されている。
「第Ⅰ章:謡い、舞い、演じるために―住友コレクションの能装束」では、春翠によって収集された能装束100点近くのうち、7割を占める亮太郎仲介のコレクションを選りすぐって展示している。
能装束には、女性役の華やかな表着(うわぎ)である「唐織」(からおり)を代表に、男性役の表着として威儀を正す役の「狩衣」(かりぎぬ)や、武将などの荒々しい役の「法被」(はっぴ)、そして舞を舞うときに着る「長絹」(ちょうけん)など、役柄や用途に応じてさまざまな種類があることがわかりやすく紹介されている。

《白地松青海波模様袷狩衣》 江戸時代・18世紀 泉屋博古館東京
さらに男性役が表着の下に着用する華やかな「厚板」(あついた)や、刺繍と摺箔を併用した「縫箔」(ぬいはく)、下半身に着ける袴の一種「半切」(はんぎり)などが並ぶ住友コレクションは、能を演じるために必要な装束が一通り揃っているのが特徴であり、実際に使用された跡が多く見られることから、鑑賞目的ではなく実用目的で集められていたことがわかる。
模様が類似する亮太郎旧蔵の唐織と並び2人の交流を象徴する《紅白萌黄段青海波笹梅枝垂桜模様唐織》を含むこれらのコレクションは、大正時代に出版された『能装束模様百佳選』でも国宝級として高く評価されていた。

《紫地鉄線唐草模様長絹》 江戸時代・19世紀 泉屋博古館東京
第Ⅱ章は「もてなす「能」―住友家の演能と大西亮太郎ゆかりの能道具」。
江戸時代、能が武士のたしなみであった頃、大阪の有力商人であった住友家でも当主が能を演じ、武家との交際に役立てていた。特に七代友輔(ともすけ)は能を好み、自ら演じたとされる能面2面がコレクションに伝わる。

《白色尉》 桃山時代・16世紀 泉屋博古館東京
十五代春翠も、客人をもてなす際に大西亮太郎の一門に演能を依頼していた。住友家は、十二代友親が亮太郎の伯父・大西閑雪に謡を習うなど、春翠の時代以前から大西家と交流があった。その縁から、春翠は亮太郎に師事して謡と仕舞を稽古し、長女の孝も仕舞を習っている。
亮太郎は、春翠の能道具収集においても重要な役割を果たし、装束だけでなく、能面、笛、小鼓、大鼓、太鼓といった能にまつわる諸道具全てを、亮翠を通じて収集した。大正10年(1921年)の唐織と法被の新調の際にも、亮太郎が助力している。
展示では、春翠が最初に手に入れた、天下太平や五穀豊穣を祈る神聖な演目「翁」で用いられる、桃山時代作の穏やかな表情をした《白色尉》を見ることができる。

《小井戸茶碗 銘 筑波山》朝鮮時代・16世紀 泉屋博古館東京
第Ⅲ章は「茶の湯の友―春翠と亮太郎」。
江戸時代半ばから饗応の一環として茶の湯を取り入れ、当主自ら客をもてなした住友家において、十五代当主・春翠は大阪・茶臼山の本邸に茶室「好日庵」や「知足斎」を構え、その道具の収集にも力を注いだ。
能楽師の大西亮太郎も余技として茶をたしなみ、大正7年から9年(1918〜1920)にかけて春翠が催した複数の茶会に参加するなど、能楽と茶の湯の両面で2人の交流は深められた。
本章では、こうした2人の交流を彩った、茶会で用いられた住友コレクションの茶道具を紹介する。

原羊遊斎《椿蒔絵棗》江戸時代・19世紀 泉屋博古館東京
特集展示は、「染・織・刺繡をいろどる金属、そして新たな可能性」。
住友の銅製錬業という歴史的背景から染織品に使われる金属に焦点を当てた本章では、能装束の《紅地時鳥薬玉模様縫箔》などにも使われている金箔を砕いた金砂子や、和紙に金箔を貼った撚金糸など、金属による豪華な加飾の技法を紹介するとともに、現代における金属と染織品の関係として、住友金属鉱山が開発したレアメタル由来のパウダー素材SOLAMENT®を生地に塗り込み、ダウンなしでダウンジャケットと同等の保温性を実現した「DOWN-LESS DOWN JACKET」を紹介している。

《紅地時鳥薬玉模様縫箔》江戸時代・18世紀 泉屋博古館東京
「唐織」や「厚板」など、なかなか馴染みのない能装束や能道具の世界ながら、実際に目の前で名品に触れ、ガイドブックである図録で学ぶだけでその見分けが身に付くようになってくる、希有な機会。ぜひ、泉屋博古館東京で体験してほしい。
入館料
一般1,200円(1,000円)、学生600円(500円)、18歳以下無料
※20名様以上の団体は( )内の割引料金です。
※入館券はオンラインチケットを除き、館受付での販売となります。
※学生・18歳以下の方は証明書をご呈示ください。
※障がい者手帳等ご呈示の方は無料。
※ぐるっとパス2025、泉屋博古館東京年間パスポートも利用可。
※五島美術館の特別展「古染付と祥瑞―愛しの青―」(会期:2025年10月28日~12月7日)の
チケット半券を受付にてご呈示いただいた方は、団体割引料金(一般1,000円、学生500円)でご入館いただけます。
※本展のチケット半券にて、五島美術館の特別展「古染付と祥瑞―愛しの青―」を割引料金にてご覧いただけます。




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