会期:2024年1月6日[土]〜 3月3日[日] ※前期・後期で大幅な展示替えあり
前期 1月6日[土]〜 2月4日[日] / 2月6日[火]〜3月3日[日]
開館時間:10時~18時(金・土曜日は、20:00まで) ※入場受付は閉館の30分前まで
休室日:1月9日[火]、15日[月]、2月5日[月]、13日[火] ※第1月曜日は全館休館
会場:千葉市美術館
観覧料:一般1,500円(1,200円)、大学生800円(640円)、小・中学生、高校生無料
※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
※( )内は前売券、および市内在住65歳以上の料金
◎本展チケットで5階常設展示室「千葉市美術館コレクション選」もご覧いただけます。
◎ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は観覧料半額
◎ごひいき割引:本展チケット(有料)半券のご提示で、会期中2回目以降の観覧料2割引
鳥文斎栄之《貴婦人の舟遊び》寛政4-5年(1792-93)頃 大判錦絵3枚続 ボストン美術館蔵 Museum of Fine Arts,
Boston. William Sturgis Bigelow Collection 11.14119-21 Photograph © 2023 Museum of Fine Arts, Boston
世界初の鳥文斎栄之展がついに開幕!!
サムライの視線で描かれた、オトナ心をそそる優美な美人画の競艶!!
重要な浮世絵師のひとりでありながら、明治時代には多くの作品が海外に流出。最も開催が実現困難とされている鳥文斎栄之(ちょうぶんさい・えいし、1756〜1829)の展覧会が、ついに実現する。
世界初の栄之展となる本展では、ボストン美術館、大英博物館からの里帰り品を含め、錦絵および肉筆画の名品を国内外から集め、初期の様相から晩年に至るまで、栄之の画業を総覧しその魅力を紹介。旗本出身という異色の出自を持ちながら、幅広い画題で人気を得た栄之の知られざる実像に迫る。
鳥文斎栄之《畧六花撰 喜撰法師》 大判錦絵 寛政8−10年(1796-98)頃 大英博物館蔵
The British Museum, 1927,0518,0.5 © The Trustees of the British Museum. All rights reserved.
プロローグは、「将軍の絵具方から浮世絵師へ」。禄高500石のれっきとした旗本であった栄之が、町人の世界である浮世絵師に転身した理由は謎に包まれている。最初は御用絵師の狩野栄川院典信(かのう えいせんいん みちのぶ)という人の弟子になっており、栄川院の「栄」を引き継いで栄之と名乗った。栄川院は田沼意次から敷地を譲り受けて、木挽町狩野(こびきちょうがのう)を開いた人物で、田沼が最も信頼した家臣の家に伝わる《田沼意次領内遠望図》が残っている。一説に、栄川院と田沼は隣同士なので、密談の際は栄川院の屋敷に行って話をするような、親しい関係にあったと言われている。その栄川院の弟子だった栄之は、絵を描くのを好んだ当時の将軍・徳川家治に仕え、日々、御小納戸役(おこなんどやく)として傍らでその絵具の調達の仕事をする“絵具方”という役目をしていた。このプロローグにおいては、栄之が武家だったイメージを感じられるよう、《関ヶ原合戦図絵巻》を展示。現在残ってはいないが、師の栄川院が描いた同様の作品を栄之が写した作品と見られる。
鳥文斎栄之《若那初模様 丁子屋 いそ山 きちじ たきじ》 大判錦絵 寛政7年(1795)頃 ボストン美術館蔵
Museum of Fine Arts, Boston. William Sturgis Bigelow Collection 11.14036
Photograph © 2023 Museum of Fine Arts, Boston
第1章は「華々しいデビュー 隅田川の絵師誕生」。浮世絵師のデビューは大概、細判の武者絵という一番安いタイプの商品から始まるが、栄之の場合は大判五枚続《吉野丸船遊び》(天明7-8年、1787-88頃、千葉市美術館蔵)のような、非常に恵まれた仕事を任されている。それはやはり武士という身分ある人物という筋からのことと考えられている。
《御殿山花見》(天明8、1788頃、大英博物館蔵)は、武家の女性を徳川家ゆかりの御殿山で描いた花見の図だが、背景に描かれた隅田川のモチーフも栄之にとっては重要で、生涯にわたっていろいろな形で隅田川を描き続けている。
第2章は「歌麿に拮抗ーもう一人の青楼画家」。寛政期(1789-1801)は、美人画の名手・喜多川歌麿の活動期と重なる。歌麿は蔦屋重三郎が見い出し育てた浮世絵師であるのに対して、栄之は西村屋与八という老舗の版元が主に出版をしていた。美人の“全身座像”が栄之のアイコン的な画風となるが、一方で歌麿と言えば“大首絵”を思い浮かべる人が多いだろう。これは蔦屋・歌麿・大首絵というブランドに対して、西村屋・栄之・全身座像という棲み分けをしながら売り出しからではないかと考えられている。
《畧六歌撰 喜撰法師》(寛永8-10、1796-1798頃、大英博物館蔵)は珍しい栄之の大首絵だが、「西村屋長」という聞きなれない版元からの出版になっている。蔦屋重三郎が寛政9年(1797)に亡くなったことも、栄之が大首絵を出版する理由になったようだ。女性に対する視点も需要筋も異なる2人だが、それがむしろ両者の個性の違いを際立たせてもいる。
鳥文斎栄之《若菜初衣裳 松葉屋 染之助 わかき わかば》 大判錦絵 寛政6年(1794)頃 ボストン美術館蔵
Museum of Fine Arts, Boston. William Sturgis Bigelow Collection 11.14082
Photograph © 2023 Museum of Fine Arts, Boston
第3章は「色彩の雅ー紅嫌い」。“紅嫌い”とは、華やかな紅色が多く広がっていく錦絵の中で、逆に紅をなるべく使わないという手法で、さまざまな作家がこの時期に挑戦している。そして栄之は浮世絵師の中でも最も多く紅嫌いを制作している絵師だった。たとえば《風流やつし源氏》シリーズ。“やつし”とは、基本的には聖なるものから俗のものへの置き換えだが、栄之の場合はこの聖と俗の差があまり感じられない。当世の人物を伝えていたとしても、上流の女性の姿として描いていることに栄之の特徴がある。
第4章は「栄之ならではの世界」。武家で育った栄之ならではの“女性のたしなみ”のような浮世絵版画に見るべきものが多くある。《風流略六芸 画》(寛政5-6、1793-94頃、ボストン美術館蔵)にも絵をたしなむ武家女性の姿があり、傍らには絵具箱なども描かれている。栄之が描くならばリアルな上流家庭の風景として捉えられ、一般の人がこうした作品を買ったとしても嫌みなくセレブの生活を覗く楽しみとされたのではないだろうか。
鳥文斎栄之《松竹梅三美人》 大判錦絵 寛政4-5年(1792-93)頃 ボストン美術館蔵
Museum of Fine Arts, Boston. William Sturgis Bigelow Collection 11.14079
Photograph © 2023 Museum of Fine Arts, Boston
第5章は「門人たちの活躍」。栄之にはたくさんの門人がいることが知られているが、興味深いことに本名も経歴も異様なほどわかっていない。たとえば栄之の初期の門人だった孟城斎五郷(もうじょうさい ごきょう)は、《(中洲の扇屋仮宅)》の中にもイケメンの旦那として登場している。よく見ると「五郷様」と書かれた箸袋があったり、栄之にとっての上位の武家である可能性もある。ほかに鳥高斎栄昌(ちょうこうさい えいしょう)、鳥橋斎栄里(ちょうきょうさい えいり)が知られているが、「栄」が付けば栄之の門人とばかりも言えず、栄川院の「栄」でもある。『古画備考』という狩野派の絵師の朝岡興禎が書いた記録に、栄川院の弟子で栄水や永理がいたとの記述があり、あまりに経歴がわからない弟子たちは、実は経歴を隠す立場にある武家だったのではないかという疑いも成り立つ。栄川院の弟子筋で浮世絵に転向した人たちがいて、それが栄之の弟子として考えられていた可能性があるという。今後の研究が俟たれるところだ。
鳥文斎栄之《和漢美人図屏風》 絹本着色6曲1隻 文化(1804-18)後期―文政(1818-30)前期頃 個人蔵
第6章は「栄之をめぐる文化人」。栄之は蜀山人(大田南畝)像を非常に多く描き、大田南畝の賛のある作品を多数残している。ここでは、天明期(1781-89)に武家にも町人にも流行した狂歌の本、プライベートに出される摺物などを展示。栄之の生きた文化圏を息吹を体感する。
第7章「美の極みー肉筆浮世絵」では、栄之が寛政10年(1798)頃から集中して取り組んだ肉筆画を中心に展示する。千葉市美術館所蔵としてよく知られる《朝顔美人図》は、栄之の肉筆にしては珍しく「寛政七年」(1795)の年紀が入っているもの。
本展の注目作品のひとつ、初公開の《和漢美人競演図屏風》は個人の所蔵品で、本展の準備中に「まくり」の状態で発見されたものが屏風に仕立てられて展示されている。マクリの幅から想定するに、もともとは日本の美人と中国の美人六曲ずつの一双だったのではないかと推定されている。絢爛豪華な日中美女の競演を、ぜひとも会場で堪能されたい。
鳥高斎栄昌《郭中美人競 大文字屋内本津枝》 大判錦絵 寛政9年(1797)頃 ボストン美術館蔵
Museum of Fine Arts, Boston. William Sturgis Bigelow Collection 11.21185
Photograph © 2023 Museum of Fine Arts, Boston
最後の第8章「外国人から愛された栄之」では、栄之がいかに海外の人に好まれたかを見る。ボストン美術館には400点以上の栄之が所蔵されているが、国内では400点にも達しないとされる。ここではヨーロッパのオークションカタログを展示するとともに、ボストン美術館のビゲローコレクションからの五枚続の雄大な作品などを展示。
本展は展示替えの前後期で作品ががらりと変わる。参考出品をのぞいて全156点を展示(うち大英博物館から14点、ボストン美術館から15点出品)。新発見・初公開の肉筆が5点(作品番号149、150、151、153、154)、世界に1点の版画として、栄昌《郭中美人競 大文字屋内本津枝》も披露される。
後にも先にも望みがたい、まさに見なければ一生後悔ものの大栄之展。現代を席巻する“かわいい”とは一味違う、サムライの視線で描かれた“オトナ”の女性たちの優美な浮世絵の競艶を、ぜひ間近で味わっていただきたい。
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