東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展
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- 21 時間前
- 読了時間: 8分
会期:2026年4月28日[火]〜7月5日[日]
開室時間:9時30分~17時30分 金曜日は20時まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、5月7日[木]
※5月4日[月・祝]、6月29日[月]は開室
会場:東京都美術館 企画展示室
展覧会公式サイト https://wyeth2026.jp/
展覧会公式X @andrewwyeth_ten
展覧会公式Instagram @andrewwyeth_ten
外の世界と私的な世界をつなぐ窓やドアー“境界”を鍵に、
リアリズムの奥に広がる豊かな精神世界を堪能する
20世紀アメリカ具象絵画の巨匠、アンドリュー・ワイエス(1917-2009)。
第二次世界大戦後に脚光を浴びたアメリカ抽象表現主義やポップアートが時代の主役になるなかでも流行に背を向け、身近な人や風景を静かに描き続けた。けれどその絵は単なる写実ではなく、心の奥に触れる“内面の風景”。とくに窓やドアなどの“境界”は、外の世界と私的な世界をつなぐ鍵として繰り返し登場する。
本展では、その“境界”に注目しながら、ワイエスの静かで深い世界を旅する。

《クリスティーナ・オルソン》 1947年 テンペラ、パネル 83.8x63.5cm
マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス
Myron Kunin Collection of American Art, Minneapolis, MN
photo: Curtis Galleries, Inc. ©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
ワイエスは1917年、名高い挿絵画家の父 N. C. Wyeth のもとに生まれ、幼い頃から絵の英才教育を受けて育った。1937年の初個展では全作品が完売するという鮮烈なデビューを飾る。
クリスティーナ・オルソンは、ワイエスの作品に200点以上も登場した重要なモデル。《クリスティーナ・オルソン》では、病気で歩くことが難しかった彼女が、光あふれる外と静かな室内の“ちょうど境目”に腰を下ろし、ふたつの世界をつなぐ存在として描かれている。風に揺れる髪は、暗い室内とは対照的に外の生命感や空気の動きを感じさせ、静けさの中に物語の気配を漂わせている。

《自画像》 1945年 テンペラ、パネル 63.5×76.2cm ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン、ニューヨーク
National Academy of Design, New York, USA/Bridgeman Images.
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
ワイエスは、アメリカ美術の流れの中でも“どこにも収まりきらない”独自の世界を築いた画家。前衛芸術の流行にはあえて背を向け、生まれ故郷のペンシルヴェニア州と夏の家のあるメイン州を舞台に、身近な人々や風景を描き続けた。
美術史の評価を意識するより、自分の内面を静かに映し出す――まるで“絵で書く私小説”。けれどその作品は個人的な物語にとどまらず、見る人それぞれの記憶や感情に響く普遍性を持っているところが大きな魅力だ。
スケッチブックを抱え、どこか怒りを秘めたような表情を見せるこの《自画像》は、ワイエスの内面の揺れを映した一枚。彼は日々、自宅周辺を歩き回りながら“心に響く何か”を探してスケッチを重ねていた。しかもこの作品は、高名な挿絵画家である偉大な父を踏切事故で突然失った直後に描かれたもの。静かな風景の裏側にある、若き画家の強い感情がにじみ出るドラマチックな自画像。
ワイエスの作品にあらわれる深い光と影――それは単なる表現ではなく、「生と死」に真正面から向き合った人生の記憶そのものだった。
1945年に父と幼い甥を同時に失い、さらに数年後には自身も手術中に一度心臓が止まる体験をする。死は彼にとって遠いものではなく、すぐそばにある現実となった。それでも彼は、生と死を引き裂かれたものではなく“静かにつながるもの”として見つめ続ける。そのまなざしは、日本人にも通じる「無常」の感覚となって、彼の絵の奥に深く流れ続けている。

《粉挽き場》 1962年 テンペラ、パネル 77.5x130.8cm フィラデルフィア美術館
Philadelphia Museum of Art: Gift of the Honorable Walter H. Annenberg and Leonore Annenberg and the Annenberg Foundation, 2007-13-3 ©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
《粉挽き場》でワイエスが描いたのは、独立戦争の時代から静かに佇んできた粉挽き場と穀物蔵。やがて彼はこの建物を手に入れ、増改築して妻ベッツィと暮らす新しい住まいにした。建物の間の二羽の鳩は、ここが夫婦二人の世界となることを暗示しているようだ。

《オルソンの家》 1966年 水彩、紙 71.0x48.4cm 丸沼芸術の森
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
ワイエスは約30年にわたり、メイン州のオルソン・ハウスと、そこに暮らす姉弟――クリスティーナ・オルソンとアルヴァロ・オルソンを描き続けた。
病で脚が不自由になりながらも誇り高く生きた姉と、彼女を支えるために海の仕事を離れ農作業に尽くした弟。その強い人間性にワイエスは深く心を動かされる。さらに彼らの暮らしの中に、移民としてこの地に根を下ろしアメリカの基盤を築いた人々の姿を重ねて見ていたのかもしれない。
《オルソンの家》でワイエスは、オルソン・ハウスの暗い納屋の内側から明るい母屋を見つめる構図で、姉弟の関係を象徴的に描いた。静かで内向的な弟アルヴァロと、社交的で外に開かれた姉クリスティーナ――暗さと明るさの対比が、その対照的で支え合う絆をそっと浮かび上がらせている。

《乗船の一行》 1982年 テンペラ、パネル 70.5x51.4cm フィルブルック美術館、タルサ
Philbrook Museum of Art, Tulsa, Oklahoma. Bequest of Marylouise Cowan, 2010.9.11.
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
ワイエスは、クリスティーナ・オルソンやカール・カーナーなど、同じ人物を長く描き続けたことで知られる。彼らの没後はヘルガ・テストーフが重要なモデルとなったが、やがてワイエスはより広いモティーフへと関心を広げ、自宅周辺を歩きながら心に「カチッ」とスイッチが入る瞬間を探し続けた。
そうして選ばれた風景には、生の営みとそこに寄り添う死の気配が静かに重なり合い、人が生きることの終わりまでを見つめる深いまなざしが込められている。
《乗船の一行》は、ワイエスがメイン州で夫妻所有の島にある無人の室内を描いた作品。窓の外に見えるヨットは、ここにいた人々が旅立った気配を感じさせ、時間の流れや人の移動、さらには別の世界への出発までも静かに想像させる余韻に満ちている。

《ゼラニウム》 1960年 ドライブラッシュ・水彩、紙 52.7x39.4cm ファーンズワース美術館、ロックランド
Collection of the Farnsworth Art Museum, Rockland, Maine, Bequest of Betsy James Wyeth Trust, 2021.1.1
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
ワイエスは、身近な人や風景を描きながらも、単なる記録ではなく“心に響いた一瞬”を作品に刻み続けた。その根底に流れていたのは、生と死を静かに見つめる無常の感覚。窓やドア、水路に張る氷といった「境界」はしばしば画面に現れるが、それは生と死を対立させるためではなく、むしろ両者がつながり合うことを示す象徴として描かれていた。
《ゼラニウム》は、クリスティーナ・オルソンの姿を窓越しにとらえ、ゼラニウムの鉢とともに描いた作品。その“窓”という隔たりは、障害を抱えながら厳しい世界を生きた彼女との静かな距離感や、届きそうで届かない心の間合いをそっと感じさせる。

《ヒトデ》 1986年 水彩、紙 72.7x54.0cm フィルブルック美術館、タルサ
Philbrook Museum of Art, Tulsa, Oklahoma. Bequest of Marylouise Cowan, 2010.9.14.
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
《ヒトデ》では、ヒトデが飾られた窓越しに双眼鏡を覗く妻ベッツイの姿と、その向こうの水平線が見えている。双眼鏡の向こうには、海に出た息子たちの船があるのかもしれない。窓からさらに双眼鏡の先の海へと視線が伸びていくことで、室内から外の世界へ広がる静かな想像と家族への思いが感じられる作品。

《薄氷》 1969年 テンペラ、パネル 110.2x121.9cm 株式会社三井住友銀行
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo
《薄氷》は、クリスティーナ・オルソンの亡くなった次の冬に描かれた作品。氷の下に沈む枯れ葉は一見“死の世界”を思わるが、ワイエス自身はそれを死そのものではなく、自らが重ねてきた経験や出会った人々の記憶だと語っている。
土地の記憶と人の気配を描くワイエスの作品は“アメリカの心の風景”として愛され、2007年には ジョージ・W・ブッシュ 大統領から芸術勲章を授与。日本でも1974年の回顧展以来人気が高く、今なお国民的画家として親しまれている。
リアリズムの奥に広がる豊かな精神世界は、日本初の公開作品を含む没後初のこの個展により、さらなる多くの共感を呼ぶことだろう。
観覧料(税込)
当日券 一般 2,300円(2,100円)/ 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円)/ 65歳以上 1,600円(1,400円)
・( )内は前売料金。前売券は2026年2月28日(土)10:00~4月27日(月) 23 : 59までの販売
・18歳以下、高校生以下は無料。
・毎月第3土曜日・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般通常料金の半額(住所のわかるものをご提示ください)。販売は東京都美術館チケットカウンターのみ。
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
・18歳以下、高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください。
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