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けむりと人々のつながり―メソアメリカの記憶

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  • 4 日前
  • 読了時間: 6分

会期:2025年9月20日[土]~12月21日[日]

開館時間:午前10時~午後5時  ※入館締切は午後4時30分

休館日:月曜日(ただし、10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日[火]、11月4日[火]、11月25日[火]


会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室




目の覚める色彩と、土着信仰とキリスト教が融合した斬新な発想に触発される、

メソアメリカ(中米)をめぐる新しいたばこのけむりの文化展


 “たばこのふるさと”とされる中南米地域。植物としてのたばこも南米大陸のアンデス山中で誕生したと考えられ、アメリカ大陸各地の人々によってさまざまな用途、方法で利用されてきた。

 特に、中米の古代メソアメリカには、たばこを使った儀式や信仰が見られ、土器や喫煙具にその痕跡が残っている。たばこのけむりは神々と人々を繋ぐ媒介とされ、神聖な儀式に欠かせない存在だった。こうした文化は現代にも受け継がれ、先住民文化が息づく地域では今も儀礼の中でたばこや香のけむりが重要な役割を果たしている。


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彩色人物座像 オアハカ地方 6世紀~8世紀 林屋コレクション


 展覧会は2章で構成。「1.古代の人々とけむり」では、古代メソアメリカの中でも、たばことの関わりがみられるメキシコ西部地方、メキシコ中央部、マヤ地方の3つの地域に注目する。

 メソアメリカとは、現在のメキシコ北部から中央アメリカの一部まで広がる地域のことで、熱帯雨林や砂漠、山岳地帯など多様な自然環境がある。ここには、異なる言語を話す多くの民族が国家や集団を築き、16世紀初頭のスペイン人の侵略まで統一された国家は存在しなかった。各民族は独自の文化を育み、今日までその遺産が受け継がれている。

 また、メソアメリカでは少なくとも7世紀頃からたばこが儀式で使われていたことがわかっている。


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しぼ状脚付土製パイプ メキシコ西部地方 11世紀~16世紀初頭


 メキシコ西部地方では土製のパイプが多く出土しており、パイプでの喫煙が盛んだったことがわかる。パイプでの喫煙は、11世紀以降メキシコ北部から南下した部族によって広まったとされ、15世紀のタラスコ王国の記録にも、儀式や裁判、戦におけるけむりを使った占いの場面が描かれている。たばこは首長や神官などの高い地位の人々に限られて使用されたと考えられている。


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首長土製パイプ メキシコ中央部 11世紀~16世紀初頭


 メキシコ中央部では古くから巨大都市が興亡し、14世紀以降はアステカ王国が繁栄した。喫煙にはアカジェトルや土製パイプが使われ、香を焚く際にはコパル(樹脂)が多用されていたことが記録からわかる。


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葉巻状のたばこをふかす神様のレリーフ(原寸複製)


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喫煙人物図彩文壺 マヤ中部地方 7世紀~11世紀

 

 マヤ地方では、儀式で発生させるけむりが人々を浄化し、天界と地上界を繋ぐ役割を果たしてきた。この伝統は古代から現代まで引き継がれ、年中行事や個人の儀式でも行われている。

 マヤ文明では、葉巻やトウモロコシの皮で包んだ紙巻状のたばこが主に使用され、絵文書や土器にもその様子が描かれている。パレンケ遺跡では、当時のけむりの使用を示す資料も発見されている。また、『ポポル・ヴフ』などの神話にもたばこや香が登場し、重要な役割を担っていたと考えられている。


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サン・パブロ・ビジャ・デ・ミトラ メキシコ 2001年 撮影:澤田尚幸


 「2.現代の人々とけむり」では、20世紀以降のメキシコ、グァテマラにおいて、人々とけむりのつながりがみられる事例を、大きく「日常生活の中にみられるもの」「神様へのささげもの」「古代らしさを表すもの」の3つのテーマにわけて紹介している。

 16世紀以降、スペインの植民地支配でヨーロッパ文化が流入し、土着の信仰は一部が失われつつもキリスト教と融合して変化した。19世紀の独立や社会変動を経ても、古代の儀礼要素は残り、現代ではけむりが浄化や神・祖先への祈りのために用いられている。


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仮面 メキシコ ゲレロ州 20世紀後半


 儀式で焚かれるけむりは浄化や天地をつなぐ役割をもち、古代から現代まで受け継がれている。現在も年中行事や冠婚葬祭などで用いられ、メキシコ各地の祭りではキリスト教の影響を受けつつも、古代以来の世界観を感じさせる要素が残っている。

 メキシコでは古代から仮面が儀礼に用いられ、死者に石製仮面を付す例もあった。16世紀以降はカトリック布教の芸能や宗教劇に使われ、土着の儀礼も内容を変えつつ続いた。現在も仮面は祭りや儀式に欠かせない存在となっている。


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死者の日の祭壇(再現) 制作:山本正宏、山本敦子


 死者の日は、土着信仰とカトリックの万聖暦が融合した行事で、死者の魂が現世に戻る日とされる。家庭では祭壇を設け、マリーゴールドの花のアーチを現世の入口として飾り、死者はこのアーチをくぐって帰ってくると考えられて、供物をささげて祖先に家族の幸せを祈る。

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マシモン グァテマラ 20世紀後半


 グァテマラやメキシコでは、土着の神やキリスト教の影響を受けた神にたばこを供える習慣があり、神に吸わせることで喜ばせ、願いの成就を祈る信仰が続いている。


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サン・シモン グァテマラ 20世紀後半


 マシモン信仰は、グァテマラの先住民を中心に花やろうそく、酒、たばこなどを供えて行われる儀礼で、土着の神とカトリック聖人信仰が融合したものとされる。これは先住民のみならずラディーノと呼ばれる混血の人々にも広まり、彼らの間では「サン・シモン」として信仰されている。


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サンタ・ムエルテ メキシコ 2025年


 メキシコで信仰される骸骨姿の聖母サンタ・ムエルテは、供物にたばこが捧げられ、浄化や願いを伝えるため香も用いられる。カトリック教会には認められていないが信者は300万人以上おり、良い願いも悪い願いも叶える存在として、社会的に疎外された人々の救済者とみなされている。

 現代のパイプは儀礼用だけでなく土産品などにも作られ、古代土偶を模した装飾に人々の古代イメージが反映されている。古代から続くパイプは、現代では古代の世界観を表現する役割も担っているといえる。


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人頭像付ヘビ形土製パイプ メキシコ 20世紀後半


 これまで幾度も中南米に関係する展覧会を開催してきたたば塩による、久しぶりの中南米展。現代メキシコ周辺地域を中心に、古代と現代の人々とけむりの関係を探るというフレッシュな視点が光る。約70点の資料を通して、メソアメリカのたばことけむりにまつわる文化の一端を紹介する。

 展覧会に合わせてミュージアムショップに用意された、ほしいもののミニチュアを持たせる(すでにお金がかけられている)「エケコ人形」(ペルー)、悪い気を払うために用いられるカラフルな「トラヤカパンの陶芸」(メキシコ)、動物たちの彩色とフォルムに思わず目を覚まされる「イサイーアス・ヒメネスの木彫」(メキシコ)なども必見!! 展覧会と合わせて、訪れる人の目を驚かせ、楽しませてくれることだろう。



【入館料】

大人・大学生 300円

小・中・高校生 100円

満65歳以上の方 100円


※未就学児の方は無料です。また、障がいのある方は、障がい者手帳(ミライロID可)などのご提示で、ご本人様と付き添いの方1名まで無料です。


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