杉本博司 絶滅写真
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- 6月23日
- 読了時間: 6分
会期:2026年6月16日[火]~9月13日[日]
開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日[火]
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
展覧会公式サイト https://art.nikkei.com/sugimoto/
デジタル化によって絶滅が危惧される銀塩写真に焦点を当てることで
杉本博司の表現の根幹を捉えた大回顧展
現代美術の多彩な領域で活躍する杉本博司。その創作の原点である銀塩写真に焦点を当てた展覧会が開催されている。
建築プロジェクト「江之浦測候所」をはじめ、舞台芸術の演出、書、陶芸、和歌、料理など幅広い分野で国際的な評価を得る杉本だが、その表現の根幹には一貫して銀塩写真がある。
本展では、デジタル化の進展により希少な存在となりつつある銀塩写真に着目し、1970年代後半の初期作から最新作まで約60点を紹介する。写真を「真実を描くメディア」と捉える杉本の思想と独自の表現世界を、代表作の数々を通してたどる。また、杉本のほぼ写真作品のみで構成される国内美術館での個展としては、2005年以来約21年ぶりの開催となる。

杉本博司 《類人》 1994年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
会場は、3つの章、全13シリーズにより、ゆるやかに時系列に沿いつつ杉本博司の作品世界の展開をたどっている。
1章「時間・光・記憶」では、1970年代から80年代に着手され、杉本の評価を確立することになった〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉の3つのシリーズなどにより、作品世界の始まりを紹介。
〈ジオラマ〉では杉本は、アメリカ自然史博物館の動物ジオラマを撮影し、写真の力によって剥製を生きた動物のように見せる表現を実現した。このシリーズは「どんな虚像でも写真に撮れば実像になる」という考えを示すデビュー作であり、今回の展覧会では新作を含む人類の歴史をテーマとした関連作品群が初めてまとまって展示される。

杉本博司 《パレス・シアター、ゲーリー》 2015年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本は「映画一本を写真で撮ったらどうなるか」という問いから、映画全編を長時間露光で撮影する〈劇場〉シリーズを生み出した。物語は白く輝くスクリーンへと還元され、その光によって映画黄金時代の劇場の豪華な内装が浮かび上がる。一方で、衰退しつつあった映画館を題材にした《パレス・シアター、ゲーリー》には、すでに“絶滅”への視点が表れている。

杉本博司 《相模湾、江之浦》 2025年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
ぽっかりと開けた展示空間にふいに出現する〈海景〉シリーズは、「原始人と現代人は同じ風景を見られるのか」という問いから生まれた作品である。海と空だけを写した普遍的な水平線を通して、杉本博司は写真を太古の時間へさかのぼる装置として用いた。1980年の《カリブ海、ジャマイカ》以来、世界各地で同じ構図の海景を撮影し続けている。

杉本博司 《サヴォア邸》 1998年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
2章「観念の形」では、人間の知性や想像力が生み出した「かたち」をテーマにした〈建築〉〈観念の形〉〈スタイアライズド・スカルプチャー〉シリーズを通して、作品世界の発展と深化を紹介している。
その中の〈建築〉シリーズでは、杉本が大型カメラの焦点を意図的にぼかし、「建築が建つ前の建築家の脳内ビジョン」を表現しようとした。モダニズム建築は建築家の想像力と近代社会の精神を体現するものであり、焦点をぼかすことで、その観念が形になる過程を浮かび上がらせている。

杉本博司 《観念の形 0003 ディニ曲面:擬球をねじって得られる負の定曲率曲面》 2004年
ゼラチン・シルバー・プリント 149.2×119.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
〈スタイアライズド・スカルプチャー〉は、人類の衣服の歴史を題材に、ファッションを「人体と人工皮膚による近代彫刻」として捉えたシリーズである。衣服は身体を守るためのものから、装うこと自体を目的とするものへと変化してきた。本シリーズは、自然である身体と人工物である衣服が融合した存在としての人間の姿を表現している。

杉本博司 《フォトジェニック・ドローイング 017 屋根の輪郭線 レイコック・アビー 1835–1839 年頃》 2008年
トーニング・ゼラチン・シルバー・プリント 93.7×74.9cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
3章「絶滅写真」では、銀塩写真というメディアの終焉をテーマに、その起源を探る〈前写真、時間記録装置〉、〈フォトジェニック・ドローイング〉、〈肖像〉、近作〈Opticks〉までの6つのシリーズを通して、杉本が描く「絶滅」をめぐるビジョンを考察する。
〈フォトジェニック・ドローイング〉は、写真術の先駆者であるタルボットが残した初期の陰画(ネガ)から、彼自身も見ていない陽画(ポジ)を制作するシリーズである。杉本は、銀塩写真の起源に立ち返りながら、その終焉を見届ける姿勢を示し、暗室での作業を写真術への弔いの儀式として捉えている。

杉本博司 《ダイアナ、プリンセス・オブ・ウェールズ》 1999年 ゼラチン・シルバー・プリント
149.2×119.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
〈肖像〉は、蝋人形を生きている人物のように撮影した作品で、〈ジオラマ〉シリーズの延長線上にある。蝋人形は実在の人間の姿を写し取る点で写真と共通しており、写真術が誕生した時代とも重なる。杉本は蝋人形を通して、写真の原点にある「時間を止めて保存したい」という人間の願望を表現している。

杉本博司 《Opticks 087》 2025年 タイプ C プリント 119.4×119.4cm
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
〈Opticks〉は、ニュートンのプリズムによる分光実験を再現し、光の色彩を作品化したシリーズである。ポラロイド撮影とデジタル処理を組み合わせるという異例の手法を用い、プリズムで分けられた光を表現した。杉本はこの作品を、光そのものを絵の具として描いた新しい絵画と捉えている。

「劇場・海景・スギモトノート」にて展示中の「スギモトノート」(所蔵作品展「MOMATコレクション」10室)
サテライト展示「劇場・海景・スギモトノート」では、所蔵品ギャラリー3階にて、〈劇場〉〈海景〉の作品13点と、杉本博司が1970年代半ばから記してきた「スギモトノート」を公開する。ノートには作品の構想や撮影・現像に関する記録が残されており、創造的な発想だけでなく、作品の完成度を支える職人的な技術や工夫も知ることができる。会場では実物に加え、来場者が閲覧できるレプリカも展示される。
東京国立近代美術館という大空間で、杉本が長年にわたって取り組んできた写真表現の軌跡をたどり、その思考と創作のプロセスを追体験できる展示は希有である。
同時に、デジタル化によって終焉を迎えつつある銀塩写真の歴史と意義を問い直し、表現媒体としての新たな可能性までをも示唆するような展開には、思わず息を呑む。
美術の枠を超えて、栄枯盛衰のなかに宿る創造の力を見つめ直させる展覧会。間違いなく一見の価値がある。
※画像の無断転載を禁じます
【観覧料】
一般 2,300円(2,100円)
大学生 1,200円(1,000円)
高校生 700円(500円)
ー( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込み。
ー中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
ーキャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。
ー本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。



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